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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)57号 判決

控訴人(原告) 長野時男

被控訴人(被告) 静岡県建築審査会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「一 原判決を取消す。二 被控訴人が、昭和五三年一〇月二〇日付をもつてした控訴人に対する建築確認処分審査請求参加不許可処分はこれを取消す。三 訴訟費用は被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、控訴人が「一 控訴人は、建築主事松本宗作が藁科勇に対してした違法な建築確認処分によつて、道路の通行権を阻害されるという重大な損失を被つたから、本訴によつて、右建築確認処分に対する審査請求への参加を拒んだ本件参加不許可処分の取消を求める利益を有するものである。なお、被控訴人が訴外市川悦久の審査請求に対して、仮令その主張のとおり裁決をしたとしても、右訴外人に対して裁決書が到達していないから、右裁決は未だ効力を生じておらず、確定もしていない。従つて右裁決の確定したことを前提として、控訴人に参加申立の許否について独立して争う利益なしという被控訴人の後記主張は失当である。二 本件参加不許可処分は、次の理由によつて違法である。(一) 処分前に控訴人を審尋しなかつたこと。(二) 控訴人が参加申立をした後、わざと一年近い日時を置いてからしたこと。(三) 具体的理由の明示がないこと若しくは社会通念から著しく外れた理由をもつてしたこと。」と述べ、当審での新たな証拠として、甲第六号証の一ないし三(いずれも原本の写し)を提出し、後記乙第一六号証の一ないし三の各成立を認めたうえ、乙第一六号証の一のようなものは被控訴人から市川悦久に送られた郵便封筒の中に入つていなかつた旨付陳し、被控訴人が、「被控訴人が市川悦久の審査請求に対してなした裁決に対しては、同人から建設大臣に対する再審査請求が期間内になされず、また裁決に対する出訴期間内に訴の提起もなかつたので右裁決は確定した。他人の審査請求に対して参加申立をした者は、その審査請求が却下又は棄却によつて終了確定し、これを争うことができなくなつたときは、参加申立の許否について独立して争う利益はなくなるものというべきであるから、この点よりしても本件控訴は理由がない。」と述べ、当審での新たな証拠として、乙第一六号証の一ないし三を提出し、前記甲第六号証の一ないし三の各原本の存在及び成立はいずれも認める、と述べたほか、原判決事実摘示のとおり(但し、原判決書四枚目表末行の「右市川の」の下に「昭和五一年六月七日付」を加え、同四枚目裏二行目の「対象とされていない。」を「右市川が、後日、被控訴人からの右審査請求についての補正命令に対する回答書によつて、はじめて、これを審査請求の対象として追加したものである。」に改める。)であるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないと判断するものであるが、その理由は、左記(一)ないし(五)のとおり付加、訂正するほか、原判決理由と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決書六枚目表一行目の「各確認処分」の下に「(第三一一八号の確認処分というのは昭和五〇年一〇月三〇日付でなされたものであり、第四二二九号の確認処分というのは昭和五一年六月四日付でなされたものである。以下前者を「第一次確認処分」、後者を「第二次確認処分」とそれぞれ略称することがある。)」を加える。

(二)  原判決書六枚目表三行目中「したこと」を「したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第八、第九号証の各記載によれば、市川悦久は、被控訴人からの、右審査請求に対する昭和五三年五月二〇日付再補正命令に対する補正回答書(同月三〇日受付)によつて、第二次確認処分についても、これを審査請求の対象とすることを明確にしたことが認められる。また」に改める。

(三)  原判決書六枚目表七行目の「二」を「三」に改め、同六枚目表六行目の次に、次のとおり加える。

二  被控訴人は、被控訴人は昭和五四年二月九日付をもつて市川悦久の審査請求中、第一次確認処分に対する申立は棄却し、第二次確認処分に対する申立は却下する旨の裁決をし該裁決は確定したので、控訴人はもはや本件参加申立の許否について独立して争う利益はない。と主張する。よつて案ずるに、成立について争いのない乙第一六号証の一の記載によれば、被控訴人は市川悦久の審査請求に対しその主張のとおり裁決をしたことが認められるが、その裁決書が市川悦久に到達したことについては、右乙第一六号証の一及び成立について争いのない乙第一六号証の二、三をもつてしては、これを認めるに不十分であり(蓋し、乙第一六号証の二、三による配達証明にかかる郵便物の内容が右裁決書であつたことは、右書証によつては確認し難いからである。)、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうだとすると、右裁決の効力は未だ生じていないものといわざるを得ないから、爾余の判断をなすまでもなく右裁決は確定したものと認めることはできない。右裁決が既に確定したことを前提とする被控訴人の前記主張は、失当であつて採用できない。

そうして、前記一に判示の事実関係のもとでは、他に特段の事情の認められない以上、控訴人は、本件参加不許可処分の取消を求めるについて法律上の利益を有し、本訴につき原告適格を有するものと認められる。

(四) 原判決書八枚目表六行目の次に、次のとおり加える。

控訴人は、被控訴人が本件参加不許可処分をなす前に控訴人を審尋しなかつたのが違法である、と主張するが、被控訴人が利害関係人として審査請求に参加を求めた者を審尋した後でなければその参加申立を不許可とすることはできないという法律上の根拠はないから、控訴人の右主張は失当である。

また、控訴人は、本件参加不許可処分は、控訴人が参加申立をした後わざと一年近い日時を置いてからなされたから違法である、と主張するが、被控訴人が控訴人の参加申立のあつた後、本件参加不許可処分をなすまでにわざと一年近い日時を置いたものと認めるに足りる証拠はないので、爾余の判断をなすまでもなく、控訴人の右主張も失当である。

さらに、控訴人は、本件参加不許可処分は具体的理由の明示がないがゆえに若しくは社会通念から著しく外れた理由をもつてなされたがゆえに違法である、と主張するが、本件参加不許可処分には本項冒頭に説示のとおりの理由が付せられているものであつて、これによれば控訴人の右主張の失当なことは明白である。

(五) 原判決書八枚目裏五行目の「三」を「四」に改める。

二  よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条一項の例に則つてこれを棄却することとし、控訴費用の負担については、同法第九五条、第八九条の例によつて控訴人の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判官 林信一 宮崎富哉 石井健吾)

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